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さて、まぐろ漁船の災害の話に移ります。
漁船全体の災害の発生件数は年々減少していますが、汽船やその他陸上産業と比べると依然として高い発生率を示しています。
漁ろう作業、荷役作業、漁獲物取扱作業中に多発しており、災害の状況は、転倒、激突、はさまれ、まき込まれが多くなっています。
まぐろ漁船では、特に海中転落、釣針などの飛来、まき込まれによる災害が目立っています。
海中転落事故の実例を紹介します。
まぐろ延縄漁船A丸、三七九トンは、日本を出港し、一力月後の六月十七日にインド洋漁場に到着し、操業を開始しました。
操業開始から九日目の六月二十五日のことです。
その日の天候は浸り、風力二、気圧一、○〇七ヘクトパスカル、水温一〇・八度、船尾で投縄作業中に漁具を船首へ運んでいった甲板員二十五歳が、三十分以上たっても戻ってきません。
トイレなどを捜しましたが姿が見えないので、休息中の乗組員全員を非常ベルで起こし、船内を捜すと同時に投縄作業を中止し、海中転落したと考えられる海域を中心に捜索を開始しました。
しかし、十日間にわたる懸命な捜索にもかかわらず発見できず、家族の了承を得て捜索を終了しました。
海中転落は、昼夜にかかわらず目撃者がいない場合は、転落時刻や位置の確認ができず、付近で操業中の漁船の協力を得て救助捜索活動を行いますが、残念ながら発見されることは少なくなっています。
海中転落の原因は、まぐろ漁船では舷側から身を乗り出しての作業中に、船体の動揺や波浪の打ち込みによるものが多く、また、先ほどの例のように、目撃者不在で原因不明の行方不明も多く報告されています。
具体的な対策としては、甲板上での作業中は作業用救命衣などの保証具を必ず着用し、波の打ち込み、船体の動揺に十分気を付けること。
気象、海象に常に気を配り、必要に応じて監視員を置くこと。
夜間や荒天時にやむを得ず海中転落のおそれのある作業を行うときは、必ず命綱を使用するとともに、非常の際の連絡体制を整えて経験者二人以上で行うこと。またトイレは必ず船内トイレを使用することがあげられます。

 

 

 

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